(H22 新潟県高等学校教育研究会物理部会での紹介原稿)
数年前にイタリアで教育用に開発されたハード・ソフト共にオープンソースのマイコンボードArduinoの高校物理での利用の可能性を紹介する。Arduinoは約7×5.5cmの基板中に基本的な機能がほとんど詰め込まれており,何らかの表示器とセンサーを接続すれば単独で計測器として利用することができる。筆者がこれを知ったのは最近のことで,今回は測定例として電圧,電流,明るさ,温度の測定の紹介にとどまるが,利用の可能性は大きい。オープンソースであるハード・ソフト設計が充実していて初心者にとっても取り組みやすく,部活等で生徒と共に製作過程を共有できる楽しみもある。
ハードウェア仕様は以下の通りである。
マイクロコントローラ:ATmega328P 動作電圧:5V 入力電圧:7〜12V デジタルInput/Output:14ポート アナログ入力:6ポート(分解能10ビット) デジタル出力最大電流:40mA フラッシュメモリ:32kB(2kBはブートローダー) SRAM:2kB EEPROM:1kB クロック周波数:16MHz(本体価格は3200円程度)
ソフトウェア開発はC言語を踏襲したArduino言語で行い,パソコン上で記述・コンパイルした後,USBを通してArduinoのフラッシュメモリに転送される。一連の操作は図のようなIDEが用意されており,非常に簡便にできる。プログラムが蓄えられたArduinoは以後単独で動作可能で,電源のON/OFFでリセットが行われる。13番ピンに接続されたLEDを0.5秒間隔で点滅させるプログラム例を下記に示す。
int LED_Pin=13; //13pin使用 void setup(){ //初期設定開始 pinMode(LED_Pin,OUTPUT); //13pin出力設定 } //初期設定終了 void loop(){ //繰返しの開始 digitalWrite(LED_Pin,HIGH); //13pinを5V delay(500); //500ms待機(LED点灯) digitalWrite(LED_Pin,LOW); //13pinを0V delay(500); //500ms待機(LED消灯) } //繰返しの開始に戻る
表示装置としては8×8LEDマトリックスを用いたが,小型液晶ディスプレイを用いれば,より詳細なデータを表示することも可能である。写真左はブレッドボード上にLEDマトリックスを組み込んだ試験回路,右は2行液晶キャラクタディスプレイを接続した例である。
実際の使用に当たっては,小型ユニバーサル基盤上にLEDマトリックスと小型のブレッドボードを取付け,コンパクトにArduino本体上に積重ねる形にした。ブレッドボードには,温度センサとしてLM35DZ,光センサとしてCdSセル,音の出力用に圧電素子と小型スピーカ,メロディICと増幅用Tr,電流測定用の基準抵抗等を接続した。
単独で動作中は,一定の時間間隔で明るさ・時間・気温を表示し,CdSを覆い隠すと動作メニューを表示するようにした。再度光を当てるタイミングで,音のON/OFFや音楽演奏,バッテリチェッカ,電圧計,電流計に切り換えられる。
超小型の液晶グラフィックディスプレイを接続すればオシロスコープ的使用もプログラミングで可能であるが,これはすでにキット化されている。
筆者は,実物に触れることを通して生徒に物理を学ぶ上での物理的常識や現象のイメージを持ってもらいたいと,授業の2回に1回は教室に現物や参考資料を持ち込むことを目標として自分に課している。(なかなか目標の達成は難しい。)上記右写真や下記写真は,箱庭実験と称して回覧しているコンパクトにまとめた小実験セットの例である。
左は新旧電池の内部抵抗の違いを確認する箱庭実験セット,右は地磁気の大きさを測定する箱庭実験セットである。生徒は興味に応じて一人一人自分で実際にスイッチを入れて電流や電圧を読み取り,定量的値を出すこともできる。セットはA3程度の大きさの薄い合板にプラスチック箱を埋め込み,基本的には箱の中に実験装置を入れ,入りきらない場合は周辺の板上に装置をセロハンテープ留めしてあるだけである。実験室での生徒実験の時間が限られる中で,やった気にさせているだけかもしれないが,生徒の感想は好意的である。この箱庭実験シリーズの中にArduinoによる物理計測を組込みたいと考えている。波や電気分野でいくつか行けそうである。
その後,以下の様なものになっています(2011.6.6 現在)。回路やプログラムの詳細は
WebPage
『よみがえれ! ジャンクラジオ』(ラジオのページ)
で紹介しています。